#SS #ひさなな
5周年ドレスの指輪のこと。
(順当に考えて指輪は晶要素かなと思うんですが、二次創作なので自分用にひさななにしました)(といっても晶の色でもないので、ミチアキを推したい公式としてはあんまり固定せず匂わせたいのかなってかんじですが…)(ピンクとかじゃなく緑なので夢見ちゃいました)
目をひらくと、そこは地下劇場だった。
私たち青嵐は最近になって呼ばれるようになったのだけれど、他の学校のみなさんは劇フェスの頃からここでレヴューを繰り返し、様々な戯曲のコロスたちを相手に腕を磨いているらしい。
「ようこそおいで下さいました」
出迎えてくれたのは、ここの案内人であるえるさん。隣には大きなモグラのぬいぐるみのような、アンドリューさんもいる。
「今日は、一体どんなレヴュー?」
暗がりから声がした。目を向けると、真っ赤なドレス姿の愛城さんが立っている。
「不思議な顔ぶれね。各校から一人ずつ……というわけでもなさそうだけど」
反対側には凛明館の巴さん。彼女につられて私も視線をめぐらせると、フロンティアからは恵比寿さん、シークフェルトの中等部からは現エーデルである夢大路さん、そして高千穂さんの姿がある。みなさん、とても素敵で個性に満ちた、色鮮やかなドレスを身にまとっている。
みなさん、この地下劇場に慣れている人ばかりでほっと胸をなでおろす。勝手の分からない私は、みなさんのあとについていこう。愛城さんや夢大路さんとは話したこともあるし、大丈夫。心細さをなだめようと胸に手を当てる。もちろん私もドレスを身にまとっている。あちこちにあしらわれた青いリボンが青嵐を思わせて、少し緊張が和らぐ気がする。
あら……?
私は左手を持ち上げた。薬指に、指輪がはまっているのだ。
慌てて周りの方たちに視線を向ける。誰も、アクセサリーのようなものはつけていない……。
ではこれは一体なんなのだろう? どうして私だけが?
「レヴューではありません。今日は……」
「パーティどりゅ~!」
アンドリューさんがぱっと手を掲げると、パーティ会場のセットが現れた。
長机にはお菓子がずらっと並び、明るいワルツが流れ、証明がちかちかとまばたいた。
「えるるに楽しい夢を見せてください」
えるるさんとは、えるさんの実態で、この地下劇場の主。まだ5歳の女の子――らしい。
「そういうことなら、任せて!」
愛城さんがスポットライトの中に飛び出す。次に恵比寿さん、巴さん……とみなさんが続く。出遅れないようにと思っていたのに、指輪のことに気を取られた私はその場から動けなかった。
「どうしたの、氷雨ちゃん?」
突然声をかけられ、振り返る。
「な、ななさん?」
「ドレス、とっても似合ってるね」
「ななさんも……あ……」
言いかけて、言葉に詰まる。黄色のドレスに水色のリボンがふんだんにあしらわれているその形が、まるで私のドレスみたいだと思ったから。でも細かな装飾は違っていて、一つとして同じではない。まるでだまし絵のようだ。
そしてもちろん、その指に指輪ははまっていない。
「私たち、似てるね」
「はい。でも、全然ちがいます」
私はとっさに左手を隠したけれど、ななさんはそれを見逃さなかった。
「どうして隠すの?」
「私だけ、おかしいです……。一体、どんな役を求められているのでしょうか」
「私はその指輪、氷雨ちゃんにぴったりだと思うな」
「そう、ですか?」
「うん。氷雨ちゃんが、みんなを一生懸命愛したあかしなんじゃないかな」
「そんな大それたこと……」
「相手が気になるなら、自分の中で作っちゃえばいいんだよ」
ななさんが、やさしく私の左手に手を重ねた。
「では、ななさんで」
手をつかみ返し、彼女を見上げる。
ライトの影になった緑色の大きな瞳がまたたくのが見えた。
「指輪の宝石……緑色、ですし……」
言いながら、苦しいなと思った。
指輪の宝石は澄んだ海のような青だけれど、ななさんの瞳は新緑に近い。緑といっても異なる緑だ。
「思うだけ……思うだけですから。このパーティのあいだだけ……。いけませんか?」
「ううん、そんなことないよ」
ななさんが私の手を掬いあげ、自分の腕に導く。
「光栄です」
ななさんに導かれて、ライトの中へ踏みこむ。
緊張はすっかり消えていて、私はみなさんと楽しく時を過ごせたのでした。
(おわり)たたむ
♯4で氷雨ちゃんが最終的にたどり着いた答えが「寂しさを我慢して明るくふるまう」なの、年相応なのかもだけどやっぱり何かこう救いが欲しいな…と思った妄想です。調子が出なかったので箇条書きみたいな感じ。
空港の会員制のラウンジにイギリスへ旅立つななとお見送りの氷雨が入ってくる。
「こんな素敵なところ……本当に使ってもいいの?」
「はい、祖父が会員なんです」
にっこり笑う氷雨。ななは窓辺にあいた席を見つける。
「あそこに行こう」
「はい」
近寄るとカップルシートしかあいてない。
「困りましたね……」と氷雨。
「なにも困らないよ」とななが促し、二人でシートに座る。氷雨がドリンクを用意するが、二人ともそれにはほとんど手をつけず、窓の外の飛行機を見ている。ラウンジは寝る人もいる。時刻は夜ということもありとても静か。
「すみません、ここじゃお喋りできませんね」
「昨日たくさんしたし、これからもたくさんできるから」
「……」
氷雨は別れが寂しくて、それを紛らわせるために明るくしたいのに、これでは寂しさばかりが募ってしまう。我慢しなくちゃ。自分が寂しくなったら、相手に気を遣わせてしまう……。考えるほど思考は追い詰められ、孤独感が胸を締め付ける。早くフライトの時間になってと願うものの、時計の針の進みは遅い。ななさんを明るく笑って送り出したいのに。
「寂しいな、氷雨ちゃんとお別れするの」
なながぽつりと漏らした。
氷雨がびくっとする。まさかなながそんなことを言うとは思わず、言葉に詰まる。
「氷雨ちゃん……?」
「イギリスで、神楽さんが待ってますよ。新しい舞台も、新しい仲間も……」
「うん、それはとっても楽しみ。でも、それとこれとは別だから」
ななから氷雨の手を握る。
「不思議です。私もさっきまで寂しかったのですけど」
「そうなの……?」
氷雨はななの手を握り返し、撫でる。
「薄らいだ気がします」
「氷雨ちゃん、ずっと笑ってるから、平気なんだと思ってた」
「寂しいです、すごく……寂しいです」
けれどそういう二人の顔に、もう憂いは見えない。
「遊びに来てね」
「はい」
「絶対だよ」
「絶対、行きます」
氷雨はななの姿が見えなくなるまで手を振り続け、飛行機が見えなくなるまで空を見上げ続けた。
#ひさなな #SS
たたむ
『二人だけのドレスパーティ』
#ひさなな #SS
「そういえば、ななさんは男役が多いんですか?」
氷雨ちゃんが不思議そうな顔でこちらを振り返った。
ここは青嵐の衣装部屋。以前氷雨ちゃんが着ていたドレスが素敵だったから参考にさせてもらおうと、一人で見学というか、遊びに来ている大場ななです。氷雨ちゃんのお言葉に甘えて目的のドレス以外のものも見せてもらっていたのだけれど、うっかり「私も着てみたいなあ」とこぼしてしまっていた。
「背が高いから、どうしてもね。涼ちゃんもそうなんじゃない?」
「涼さんは、身長というよりアクロバティックな役が好きだから自然と男役が多くなる感じですね。ドレスは裾を踏んでしまいますし……あ、でもこれは涼さんの貴重なドレス衣装ですよ」
氷雨ちゃんが奥から引っ張り出したのは、ラメが散りばめられたコバルトブルーのドレスだ。
「わあ、シルエットが優雅でとっても素敵。これを涼ちゃんが?」
「去年先輩達が主演をしたオリジナル演目で着たものなんです。海の門番の役で……。肩幅は良さそうですね。でも丈が少し足りないかな」
「ひ、氷雨ちゃん?」
ぶつぶつと独り言をこぼしながら、氷雨ちゃんは細い腕を伸ばしてドレスを掲げ、私の周りを一周する。
「大丈夫です。これ、ツーピースになってるので、腰のところですぐに調整できるんです」
ハンガーにかけたドレスの腰あたりに手を差し込んだかと思うと、氷雨ちゃんはたっぷりと細かなプリーツがほどこされた裾を広げ、私の腰から下と見比べる。
「これで大丈夫です」
「だ、大丈夫って……着ちゃっていいのかな。涼ちゃんの貴重なドレスなんでしょう?」
「もう着ることもありませんし、時期が来れば後輩がほどいてしまいますから」
「でも私、ドレスなんて久しぶりで。女の子の役でもロングスカートなんてなくて」
どうして私は自分のことになるとなかなか決められないのだろう。人の背中を押すのは得意なのになあ。でも氷雨ちゃんの前で格好悪いところは見せたくないし……このスカート、外側はプリーツだけれど内側はタイトになってて、きっとプリーツが動いたときに透けて見えるシルエットが素敵なんだろうけれど、上手く動かないと裾を踏んでしまうかもしれない。動かなければ平気かな。
あれこれ考えていると、氷雨ちゃんがドレスをそっと私の前に差し出した。上目遣いで覗きこまれる。
「ななさん。ここは舞台の上じゃありませんよ」
――あ。
その言葉に、はっとする。
そう、か。
そうだった。
「それに、私が見たくなっちゃったんです。そのドレス、背が高いほど素敵ですから」
氷雨ちゃんが照れくさそうに肩を揺らして笑った。
その笑顔で、私の悩みも吹き飛んじゃったみたい。
「じゃあ、ちょっとだけ、着ちゃいます」
氷雨ちゃんからドレスを受け取って、衣装部屋の隅にある更衣室へ。
聖翔の制服を脱ぎ、コバルトブルーのドレスに袖を通す。これは舞台衣装だけれど、舞台のためじゃない。氷雨ちゃんのためだけに着飾るなんて、とっても贅沢で、すてきなことだ。
「おまたせ」
着替え終わった私を待ち構えていたのは、コバルトブルーにラメを散りばめたドレスの氷雨ちゃんだった。一見おそろいだけれど、よく見ると彼女のはドレスというより豪華なワンピースという感じだ。
「それも、先輩の演目の?」
「これは別の演目ですけど、ななさんがそれを着るならちょうどいいと思って……変ですか?」
「ううん。とっても可愛いし似合ってる」
特に大振りなリボンタイが、氷雨ちゃんの小さな身体をますます華奢に見せている。
「ななさんも素敵です。想像以上! 回ってみてください」
歓声を上げる氷雨ちゃんに気分を良くしてターンする。裾を踏まないように気をつけながら、もっともっととせがむ氷雨ちゃんに応えてちょっと脚を上げてみたりして。すると足元のスリッパが元気に飛んじゃって、私たちは声を上げて笑った。
「いつまでも見ていたいですけど、そうもいきませんね」
スリッパを拾ってくれた氷雨ちゃんが私に向かって小さな手を差し伸べる。自分の手を重ね、わざとらしくおごそかに、スリッパに爪先をそっと入れた。エスコートされるなんて授業でもやってないからドキドキしちゃうけれど、それも数秒でおしまい。だって役なんて関係ない、普段の私たちだもの。時間が足りないくらい衣装の話に花を咲かせて、舞台と関係ないおしゃべりもたくさんして、衣装から制服に着替えたときはなんだか贅沢な遊びをしたような気分だった。
「次は聖翔に来てね、氷雨ちゃん」
「よろしいんですか?」
「もちろんだよ」
自分の思いつきにわくわくが止まらなくなっちゃって、その日はなかなか寝付けなかった。氷雨ちゃんとやりたいことがたくさんあるから。ありすぎて、困っちゃうくらい時間が足りないことに気がつく。でも、悲しんでいる暇なんてない。だから大事にするんだ、ひとつひとつを。
私は布団をかぶって、未来のために目を閉じた。
メイク道具も用意したらさすがにやりすぎかな、なんて思いながら。